英文契約の責任制限条項とは?立場で変わる交渉ポイントを解説

この記事はこんな方に向けて書いています

・ 責任制限条項(Limitation of Liability)の妥当性を判断したい方

・ 海外企業との契約書レビューを担当している方

・ 自社にとって有利か不利かを判断したい方

海外企業との取引を始める際、契約書の中で特に注意が必要なのが「責任制限条項(Limitation of Liability)」です。この条項は、万が一トラブルが発生した場合に、どこまで相手に責任を追及できるかを決める重要な規定です。

しかし、責任制限条項には見落としやすい落とし穴があります。それは、同じ条文であっても、自社がサービスを提供する側か、受ける側かによって、有利・不利の評価がまったく逆転するという点です。本コラムでは、英文契約における責任制限条項の基本構造を解説しながら、立場によって異なる交渉ポイントを整理します。


結論|責任制限条項は「立場によって評価が逆転する」

同じ条文でも有利・不利は変わる

この条項の厄介な点は、当事者の立場によって、有利・不利の評価が大きく変わる点にあります。

例えば、責任制限条項の典型例として、「賠償額の上限を過去12ヶ月の支払額とする」という規定があります。

この条文は、サービス提供者(ベンダー)にとっては「想定外の巨額賠償を防ぐ防御策」となります。一方、サービスを受ける顧客側にとっては「損害が発生しても十分な賠償を受けられない制限」として機能します。

自社の立場から評価しないとリスクを見誤る

契約書を確認する際、「双方に適用される条項だからバランスが取れている」と考えがちです。しかし、実際の取引では損害が発生しやすい立場とそうでない立場があります。一見公平に見える条項でも、自社のリスク状況に照らして評価しなければ、本当の影響を見誤ってしまいます。


代表的な責任制限条項と和訳(前提理解)

基本形|責任上限+間接損害の除外

英文契約でよく見られる責任制限条項の基本形は、次のような構成です。

"IN NO EVENT SHALL EITHER PARTY BE LIABLE FOR ANY INDIRECT, INCIDENTAL, OR CONSEQUENTIAL DAMAGES. THE TOTAL LIABILITY SHALL NOT EXCEED THE AMOUNTS PAID DURING THE TWELVE (12) MONTHS PRECEDING THE CLAIM."

(訳:いずれの当事者も、間接損害、付随的損害、派生的損害について責任を負わない。賠償総額は、請求に先立つ12ヶ月間の支払額を上限とする。)

一見すると一般的な条文ですが、責任の範囲や上限の設定次第で、実務上のリスクは大きく変わります。

例外条項(Carve-out)付き

より精緻な契約では、上記の制限が適用されない「例外」を定めることがあります。故意・重過失による損害、知的財産権の侵害などが例外として規定されるケースが一般的です。


責任制限条項の基本構造

責任制限条項は、主に3つの要素で構成されます。

① 責任上限(Cap)

賠償責任の金額的な上限を定めます。「契約金額」「過去12ヶ月の支払額」「年間契約料の1倍〜2倍」などが典型例です。

② 除外される損害(Indirect / Consequential Damages)

間接損害や派生的損害を賠償の対象外とする規定です。具体的には、逸失利益(得られるはずだった利益)、データ損失、事業機会の喪失などが含まれます。

③ 例外条項(Carve-out)

責任制限の対象外とする事項を定めます。重大な契約違反については、上限や除外を適用しないとする規定です。


【重要】立場によるリスクの違い

サービス提供者(ベンダー側)の視点

ベンダーにとって責任制限条項は、事業リスクを管理する重要な手段です。システム障害やサービス停止により顧客に損害が生じた場合でも、賠償額に上限があれば、会社の存続を脅かすような巨額請求を避けられます。

サービス受領者(顧客側)の視点

一方、顧客側から見ると、責任制限条項は「損害を受けても十分な補償を得られないリスク」を意味します。特に基幹システムの提供を受ける場合など、障害発生時の影響が大きい取引では、責任上限が低すぎると実質的な救済を受けられない可能性があります。


見落としやすいポイント|立場別に整理

① 責任上限(Cap)の設定

ベンダー側では、上限は低いほど望ましいといえます。年間売上の範囲内にリスクを抑えることで、事業継続性を確保できます。

顧客側では、上限が低すぎると実質的に損害回収が不可能になります。例えば、年間1,000万円の契約で上限が100万円に設定されていれば、重大な損害発生時にほとんど補償を受けられません。

② 間接損害の除外

ベンダー側にとっては、間接損害の除外により責任範囲を予測可能な範囲に限定できます。逸失利益など、金額が膨らみやすい損害を排除できる点がメリットです。

顧客側では、実際に被る損害の大半が間接損害に分類される可能性があります。システム停止による営業損失や、取引先との関係悪化による損害などは、間接損害として補償対象外となりかねません。

③ 例外条項(Carve-out)

ベンダー側は、例外を最小限に抑えたいと考えます。例外が増えれば、責任制限の効果が薄れるためです。

顧客側は、秘密保持違反や個人情報漏えいなど、重大なリスクについては例外として責任制限の対象外にすべきです。


具体例|同じ条項でも評価が分かれるケース

ケース① 上限=過去12ヶ月の支払額

ベンダーにとっては合理的なリスク管理ですが、顧客にとっては重大事故発生時に損害の一部しか回収できない可能性があります(1,000万円の損害で、賠償額100万円)。

ケース② 間接損害の全面除外

ベンダーは責任範囲を限定できますが、顧客にとっては実質的な救済がほとんど得られない結果になることがあります。

ケース③ 例外条項が限定的

ベンダーはリスクコントロールが容易になりますが、顧客は秘密情報の漏えいなど重要な違反でも十分な責任追及ができなくなります。


実務対応|立場に応じたチェック・交渉ポイント

ベンダー側の基本戦略としては、責任上限を低く設定し、間接損害は広く除外することが基本となります。

顧客側の基本戦略としては、上限の引上げ交渉や、重要なリスクについて例外条項の追加を求めることが重要です。

バランス型の落としどころとして、上限を契約金額の1〜2倍とし、故意または重大な過失による損害などについては一定の例外を設ける形が、交渉の着地点となることが多いです。


よくある誤解|「標準条項だから問題ない」は危険

海外テンプレートはベンダー寄りが多い

特にSaaS契約などでは、提供者側が作成したテンプレートがそのまま使用されることが多く、内容はベンダーに有利な設計となっています。

「一般的=自社に適切」とは限らない

業界標準とされる条項でも、自社のビジネスモデルやリスク許容度に合致するとは限りません。個別の検討が必要です。


まとめ|責任制限条項は"立場を前提に評価する"

責任制限条項は、同じ条文であっても自社の立場によって「守ってくれる条項」にも「制限される条項」にもなります。契約書を確認する際は、必ず自社がどちらの立場にあるかを意識し、その視点から条項を評価することが重要です。

責任制限条項の適切な設計や交渉には、契約実務の経験と法的知識が求められます。初めての海外取引で不安を感じられる場合は、契約書の締結前に専門家へご相談いただくことで、思わぬリスクを回避できる可能性があります。当事務所では英文契約のレビューや交渉サポートを行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせください

以下のようなご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。

・契約書の責任制限条項が有利か不利かについて、アドバイスがほしい

・責任制限条項の交渉方法について助言がほしい

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