準拠法と裁判管轄の違いとは?英文契約で混同しやすい2つの条項を解説
海外企業との契約書をレビューしていると、契約書の終盤に「Governing Law」や「Jurisdiction」といった条項が並んでいることに気づくでしょう。これらは一見似たような内容に思えますが、実は全く異なる役割を持っています。
本コラムでは、英文契約において混同されやすい「準拠法条項」と「紛争解決条項」の違いを整理し、契約書レビューの精度を高めるためのポイントを解説します。
結論|「どの法律で判断するか」と「どこで争うか」は別の問題
最初に結論をお伝えすると、準拠法条項と紛争解決条項は、それぞれ異なる問いに答えるものです。
- 準拠法条項:契約の解釈や効力を「どの国の法律」で判断するかを決める
- 紛争解決条項:紛争が起きたとき「どこで」「どのような方法で」解決するかを決める
つまり、「ルールブック」を決めるのが準拠法条項であり、「試合会場」を決めるのが紛争解決条項と考えると分かりやすいでしょう。
準拠法条項(Governing Law)とは何か
準拠法条項の役割|契約解釈の「ルールブック」を決める
準拠法条項とは、契約内容の解釈や契約の有効性を判断する際に、どの国の法律を適用するかを定める条項です。
国際取引では、当事者がそれぞれ異なる国に所在しているため、どの国の法律に基づいて契約を解釈するかが問題になります。準拠法を明確にしておくことで、契約条項の意味や当事者の権利義務について、統一的な基準で判断できるようになります。
英文契約における典型的な準拠法条項の例
英文契約では、以下のような表現が用いられます。
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan.
(本契約は日本法に準拠し、日本法に従って解釈される。)
この条項があることで、契約の解釈において日本の民法や商法などが適用されることになります。
紛争解決条項とは何か
紛争解決条項の役割|トラブル時の「解決の場」を決める
紛争解決条項 (Dispute Resolution) は、契約当事者間でトラブルが発生した場合に、どのような手続きで解決を図るかを定める条項です。
具体的には、「どの国の裁判所で訴訟を行うか」や「仲裁によって解決するか」といった内容を規定します。この条項がないと、紛争発生時にまず「どこで争うか」という点で対立が生じるおそれがあります。
裁判管轄条項と仲裁条項の違い
紛争解決条項には、大きく分けて2つの類型があります。
裁判管轄条項(Jurisdiction) は、特定の国の裁判所に紛争解決を委ねることを定めます。判決には強制力がありますが、外国判決の執行には別途手続きが必要となる場合があります。A国の裁判所が出した判決では、B国の国内にある資産に強制執行ができないケースも多いため、注意が必要です。
仲裁条項(Arbitration) は、裁判所ではなく仲裁機関による解決を選択するものです。仲裁判断はニューヨーク条約により多くの国で執行が認められやすいという利点があります。
【一目でわかる】準拠法条項と紛争解決条項の違い|比較表で整理
比較表|目的・決定内容・条項例の違い
| 項目 | 準拠法条項 | 紛争解決条項 |
|---|---|---|
| 目的 | 契約解釈の基準を定める | 紛争解決の場・方法を定める |
| 決める内容 | 適用される法律 | 裁判所または仲裁機関 |
| 典型的な表現 | Governing Law | Jurisdiction / Arbitration |
| 問いかけ | 「どの法律で判断するか」 | 「どこで争うか」 |
なぜ両者は別々に規定されるのか
準拠法と紛争解決の場は、必ずしも同じ国である必要はありません。たとえば、準拠法をシンガポール法としつつ、仲裁地を香港とすることも実務上あり得ます。そのため、両者は別々の条項として規定されるのが一般的です。
実務で注意すべきポイント
準拠法と裁判管轄が異なる国になるケース
実務では、当事者間の交渉の結果、準拠法と裁判管轄(または仲裁地)が異なる国になるケースがあります。
このような場合、裁判所や仲裁廷は外国法を適用して判断することになり、手続きが複雑化する可能性があります。例えば、準拠法がフランス法、裁判管轄が日本だった場合、日本の裁判官にフランス法に基づく判断を求めることになります。この場合、フランス法の内容についての説明が必須となり、難易度が上がります。契約書レビューの際には、両者の組み合わせが合理的かどうかを確認することが重要です。
条項間の整合性をチェックする視点
契約書全体を通じて、準拠法条項と紛争解決条項が矛盾なく機能するかを確認しましょう。たとえば、仲裁条項を置きながら裁判管轄条項も残っているケースでは、どちらが優先されるか不明確になるおそれがあります。
よくある誤解と混乱しやすい場面
「裁判管轄を日本にすれば日本法が適用される」は誤り
よくある誤解として、「日本の裁判所で争えば、自動的に日本法が適用される」と考えてしまうケースがあります。
しかし、準拠法が外国法と定められていれば、日本の裁判所であっても外国法に基づいて判断することになります。管轄と準拠法は連動しないという点を押さえておきましょう。
仲裁条項がある場合の準拠法の扱い
仲裁の場合も同様に、準拠法は別途定める必要があります。仲裁地の法律が自動的に準拠法になるわけではありません。仲裁条項と準拠法条項の両方を確認することが大切です。
専門家に相談すべきケース
以下のような場合には、弁護士など専門家への相談をおすすめします。
- 相手方から提示された準拠法や紛争解決条項の妥当性を判断できない
- 準拠法と紛争解決地が異なる国になっており、リスクを評価したい
- 仲裁条項の内容が複雑で、自社に不利な内容が含まれていないか確認したい
英文契約の条項は一見シンプルに見えても、実際の紛争時に大きな影響を及ぼします。不安がある場合は、早めに専門家に確認することで、後のトラブルを防ぐことができます。
まとめ|2つの条項の違いを理解し、契約書レビューの精度を上げる
準拠法条項と紛争解決条項は、英文契約において混同されやすい条項ですが、その役割は明確に異なります。
- 準拠法条項は「どの法律で契約を解釈するか」を決める
- 紛争解決条項は「どこで、どのように紛争を解決するか」を決める
この違いを理解しておくことで、契約書レビューの際に条項の意味を正確に把握し、自社にとってのリスクを適切に評価できるようになります。
準拠法条項と紛争解決条項は、英文契約において重要な役割を果たしますが、それぞれの機能や効果を正確に理解しないまま契約を締結すると、予期せぬリスクを負う可能性があります。特に海外企業との取引では、相手方から提示された条項をそのまま受け入れてよいか判断に迷う場面も少なくありません。契約書のレビューや条項の修正交渉について不安がある場合は、弁護士への相談をご検討ください。
お問い合わせください
以下のようなご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。
・自社の状況にあった準拠法と紛争解決方法の組み合わせについて、アドバイスがほしい
・準拠法・紛争解決の契約交渉の落としどころについて、アドバイスがほしい

